すぐそばに潜む骨折リスク
20~30歳代から注意したい、骨粗鬆症

すぐそばに潜む骨折リスク 20~30歳代から注意したい、骨粗鬆症

骨粗鬆症と聞くと、高齢者では要注意!という印象があると思います。しかし、骨粗鬆症の発症には、「年齢」以外にもさまざまな要因が関わっていることが分かってきました。女性が特に気を付けるべき点について、骨粗鬆症をご専門とされる、中村幸男先生にお話しを伺いました。

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お話を伺った先生

中村幸男先生
信州大学医学部 整形外科講師

平成9年、自治医科大学卒業。同年、信州大学医学部整形外科入局。ハーバード大学医学部整形外科講師、昭和伊南総合病院整形外科主任医長などを経て、現在に至る。骨粗鬆症、変形性関節症、関節リウマチを専門に、研究や診療、学生教育に従事している。第5回ロート女性健康科学研究助成受賞。

他人事ではない、“骨折リスク”

骨粗鬆症とは、どのような病気なのでしょうか?

中村幸男先生 骨粗鬆症とは、「骨密度の低下」および「骨質の劣化」によって、骨の強度が低下し、骨が脆(もろ)くなり、骨折しやすくなる状態を指します。
骨粗鬆症=骨折(骨粗鬆症になると骨折する)というイメージを持たれている方が多いと思いますが、必ずしもそうではありません。骨粗鬆症には、まだ骨折していなくても「骨折リスクが高くなっている状態」も含みます。骨粗鬆症は、早期発見し適切な治療を行えば、骨密度など正常に近い状態まで回復できる可能性が高い病態、と考えています。


(図1)出典元:『骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2015年版』より作図

骨粗鬆症の人はいま、増えているのでしょうか?

中村幸男先生 はい、増え続けています。
特に、骨粗鬆症に伴う骨折は深刻な問題です。寝たきりの主な原因となる大腿骨頸部(脚の付け根)骨折は皆さんもよくご存じだと思います。
日本で行われた3年間の追跡調査によれば、骨粗鬆症に合併した大腿骨頸部骨折の発生数は、1年あたり女性では約120万人とされています(1)。また別の調査では、40才以上で大腿骨頸部の骨密度が低い女性は、男性の約5倍と報告されています(2)。女性は、骨粗鬆症を原因とした大腿骨頸部骨折を発生することが多い、ということですから、骨粗鬆症の予防と対策をきちんと行えば、大腿骨頸部骨折の発生を防ぐことができるのです。
また、意外に思われるかもしれませんが、実は20~30歳代の若い方でも骨粗鬆症を発症する可能性がありますので注意が必要です。特に女性は、若い世代から骨粗鬆症に対する予防意識を持ってもらいたいです。


(1)Yoshimura N, et al. Serum levels of 25-hydroxyvitamin D and the occurrence of musculoskeletal diseases: a 3-year follow-up to the road study. Osteoporos Int. 2015 Jan;26(1):151-61.
(2)Yoshimura N, et al. Cohort profile: research on Osteoarthritis/Osteoporosis Against Disability study. Int J Epidemiol. 2010 Aug;39(4):988-95.

女性の骨粗鬆症
20~30歳代からの予防がポイント

女性は若年であっても発症する可能性があるというのは驚きました。どのような人が骨粗鬆症になりやすいのでしょうか?

中村幸男先生 妊娠・出産によってホルモンのバランスが変化し骨密度が低下することや、過激なダイエットによる栄養不足、運動不足が骨粗鬆症の発生に影響しています。(図2参照)。しかし、この年代の方の多くは、まだ自分には関係ないと思い、何も対策をしていないのが実状です。私共の研究室では、骨粗鬆症と遺伝の関連性を研究しています。例えばお母さんやお姉さんが骨粗鬆症の場合、その娘さんは発症リスクが高い傾向にあります。従って、ご自身の家族に骨粗鬆症の方がいる場合は、若くても骨粗鬆症の検診を受けることをお奨めしています。


(図2)

女性は様々な要因から骨粗鬆症になりやすいのですね。その他に気をつけるべきポイントはあるのでしょうか?

中村幸男先生 過去に骨折経験がある方は、特に注意してもらいたいです。
転倒などの軽い衝撃で起こる骨折を「脆弱(ぜいじゃく)性骨折」といい、骨粗鬆症を診断する上で重要なポイントとなります。「脆弱性骨折」は、脚の付け根(大腿骨近位部)、背骨(胸腰椎)の骨折が代表的ですが、その他に手首(橈骨(とうこつ)遠位端)、肩(上腕骨近位部)、骨盤、足首(下腿骨遠位端)、肋骨も含みます。
過去に骨折をしたことのある方は、主治医の先生とよくご相談いただき、早めの対策をしてほしいですね。
病院での治療として、骨の吸収を抑えたり骨の形成を助ける薬の内服や注射が中心になりますが、早く治療を始めれば、その分効果が期待できます。早期からの予防・対策を心掛けるようにして下さい。

カルシウムだけではない
食事と運動で骨は生まれ変わる

骨を健康にして骨粗鬆症にならないために、日頃からできる予防法はありますか?

中村幸男先生 まずは、食事の内容を見直してみることから始めて下さい。
骨を強くする=カルシウムを摂れば良い、と思っている人が多いと思いますが、カルシウムだけでは骨は強くなりません。カルシウムを骨へ吸収(定着)させるためにはビタミンDが欠かせません。一日20~30分程度の日光浴も効果的です。さらに、骨の質を高めるためにビタミンKが必要です。ビタミンKはカルシウムの骨への沈着を促す働きもあり、骨の形成に欠かせない栄養素です。骨からカルシウムが溶け出していくのを抑える働きもあります。カルシウムは、牛乳やヨーグルトなどの乳製品だけでなく、小松菜や小魚にも多く含まれています。ビタミンDは、干しシイタケ、イワシや鮭などに、ビタミンKは納豆やブロッコリーに多く含まれておりますので(図3参照)、これらの食材を食事のメニューに積極的に取り入れると良いでしょう。お子さんがいらっしゃる方はついお子さんのことだけを考えてしまいがちですが、ご自身も一緒に栄養バランスの良い食事を摂ることを心掛けるのも大切ですね。


(図3)

骨を作るのに大事な栄養素はカルシウムだけではないのですね。食事の他に実践できる予防法はありますか?

中村幸男先生 丈夫な骨を作るために食事の見直しは重要です。一方で、骨の「強度」や「密度」を高めるために運動が欠かせません。骨は、適度な衝撃を受けると強くなっていきます。特に脚の付け根(大腿骨近位部)の骨を丈夫にするために、骨への刺激を意識した運動を行ってください。私が日頃患者さんに奨めているのは、片足立ち・ジャンプ・階段を昇るなどの運動です。膝や股関節の状態が悪い方は、踵落とし体操がお奨めです。エスカレーターやエレベーターではなく、階段を利用してみるなど、日常の行動を少し変えるだけでも効果は期待できます。お子さんがいらっしゃる方は、一緒に縄跳びをするのも良いですね。運動しないといけないと思うのではなく、誰かと一緒に楽しむことから始めてみるのが良いと思います。運動しているときに膝や股関節に痛みを感じる場合は、必ず専門の医師に相談してください。



最後にメッセージをお願いします。

中村幸男先生 若い頃から自分の「骨の健康」を意識することは、なかなか難しいかも知れません。ですが、いつまでも元気にスポーツや旅行をしたり、お子さんやお孫さんとの時間を楽しんだり、趣味を存分に楽しむために、今から自分の「骨」に少し目を向けてみて下さい。ご自身の身体が変わるきっかけになると思います。

骨粗鬆症が、ぐんと身近なものに感じられました。背が伸びる成長期だけでなく、20歳代からも骨の健康を意識する食事や運動が大切ですね。一人では始めるのが難しそうなことも、家族で声を掛けあって楽しくひとつずつ取り入れてみたいと思いました。
中村先生、ありがとうございました。

Summary
この記事のまとめ

  • 骨粗鬆症は骨折リスクが高くなっている状態
  • 骨折する前に、20~30歳代からの予防が大切
  • 食事と運動の工夫で、健康な骨作りを!

この研究は、第5回ロート女性健康科学研究助成を受賞しました。より詳しい内容はこちらへ

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