女性も隠れメタボにご用心
ウエストサイズでは気づけないリスク

女性も隠れメタボにご用心ウエストサイズでは気づけないリスク

「太りたくない」 スタイルは、女性にとって最大の関心事の1つだと思います。しかし、実は「やせている」ことに安心できない生活習慣病へのリスクが、女性にあることが最近の研究で分かってきました。いったいどういうことでしょうか? 循環器内科がご専門で、女性の肥満やメタボリックシンドロームに関するご研究をされている東京大学循環器内科坂本愛子先生にお話を伺いました。

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お話を伺った先生

坂本愛子先生
東京大学 保健・健康推進本部 同 医学部附属病院 循環器内科

平成17年3月、東京大学医学部医学科卒業。平成25年3月、東京大学大学院医学系研究科博士課程内科学専攻修了。東京大学医学部附属病院や国家公務員共済組合連合会虎の門病院での勤務を経て、現在に至る。女性の健康増進のための研究を、循環器内科医の視点から行っている。第2回ロート女性健康科学研究助成受賞。

ウエストサイズだけでなく血糖値にも注目

「メタボ」とはいったいどのような状態なのでしょうか?


坂本愛子先生 「メタボ」とは、メタボリックシンドロームを略した言葉で、近年、注目が集まっています。診断では、まず、おへそまわりの「ウエスト周囲径」(以下、「ウエストサイズ」と表記)の測定を行います。ウエストサイズは、身体に悪い影響を及ぼすことがある内臓脂肪の蓄積状態を確認でき、男性は85cm、女性は90cm以上がメタボリックシンドロームの基準値です。ウエストサイズに加えて、血圧、血糖、脂質のうち、2つ以上が基準値を超えるとメタボと診断されます。メタボは、単に太っている状態を指すのではなく、「動脈硬化」のリスク、具体的には、将来の心筋梗塞や脳梗塞などの生活習慣病のリスクが高い状態なのです。

「メタボ」は、男性の印象が強いのですが、女性も注意が必要ですか?

坂本愛子先生 そうですね。下のグラフからも分かるように、50~70歳の男女を比較した場合、メタボは、女性が約5人に1人の割合なのに対し、男性は2人に1人と男性のほうが非常に多いことが分かっています。けれども、女性は気にしなくて良い、ということではありません。一見すると、メタボとは分かりにくい、「隠れメタボ」と呼ばれる状態があることが分かってきました。


女性の「隠れメタボ」とは、どういう状態ですか?

坂本愛子先生 はい、ウエストサイズが基準範囲内でも、将来の生活習慣病リスクが高い状態です。実は女性の「ウエストサイズによるメタボ診断」には落とし穴があります。おなかの脂肪には「内臓脂肪」と「皮下脂肪」があり、ウエストサイズは、主に「内臓脂肪」の蓄積状態を反映しています。けれども、女性は男性よりもおへそまわり付近に「皮下脂肪」がつきやすいため、メタボの診断基準でも、ウエストサイズの基準値上限が、女性のほうが男性よりも5cm大きく設定されているのです。つまり、ウエストサイズを測っても、男性にくらべて「皮下脂肪」の影響がより含まれた評価になりやすく、純粋な「内臓脂肪」の蓄積量を把握するのが難しいです。そのため、見た目のウエストサイズが減少しても、注意が必要なのです。

なるほど、痩せていてもリスクが潜んでいるのですね。見た目で判断しにくい女性にはどのような特徴があるのですか?

坂本愛子先生 私のこれまでの研究では、人間ドックを2年連続で受診した女性の中で、2年目のほうが1年目よりもウエストサイズが減少した550名を対象に調査したところ、一部の人たちは血糖値が上がる結果となりました。血糖値は、糖尿病の診断などに使われる値で、「メタボ」に関わる重要な項目の1つでもあります。けれども、ウエストサイズが減ったことだけに安心していると、血糖値の推移を見落としてしまう可能性もあります。女性は特に、ウエストサイズが皮下脂肪の影響を受けやすいので、血糖値の変化にも意識を向けることが大切です。

密接に関係している “糖”と“脂肪”

糖とメタボはどのように関係しているのですか?詳しく教えてください。

坂本愛子先生 太る食事というと、揚げ物や脂たっぷりのお肉を連想するかと思います。けれども、砂糖や白米などに含まれる「糖」は、普段はエネルギーとして利用されますが、過剰摂取すると、余った分が「脂肪」として蓄積されてしまうのです。血糖値の高い状態が続くと、脂肪を身体の中で利用する働きも低下していきます。一つの機能が乱れると身体全体の健康のバランスも崩れてしまうのです。また近年、血糖値のコントロール不良によって、本来、身体の中の脂肪がつかない部位(筋肉や肝臓、心臓のまわり)にも脂肪が蓄積されることが確認されています(異所性脂肪)。糖と脂肪は一見関係がなさそうですが、メタボを予防するためには「血糖値」にも注意して、「糖」と上手に付き合う必要があるといえます。


糖との付き合い方には、特に何歳くらいから注意が必要ですか?

坂本愛子先生 若い頃からの心がけが大切ですが、女性は特に更年期を迎えると、女性ホルモンの分泌が減少することで、糖や脂質の代謝が落ち、より一層、脂肪がつきやすくなってしまいます。そのため、40代、50代の方には、特に食事や運動に気を付けるように指導をしています。

身体の変化に目を向けよう

甘い物がやめられません。どのように付き合えば良いですか?

坂本愛子先生 甘いものをやめるのは難しいですよね。たしかに、絶対に食べない!と、極端に頑張りすぎてしまうのも、結局、続けることができずに、かえって逆効果になってしまうこともあります。野菜を先に食べる、空腹時に甘いものを摂り過ぎない、など、ちょっとしたコツを取り入れることで、血糖値を上げにくい食生活に改善することができます。また、健康に良いとされている食品でも、食べ過ぎは禁物です。砂糖入りのヨーグルトや果物にも、糖が多く含まれています。運動も、もちろん大切です。必ずしも激しい運動の必要はありませんので、オフィスで階段を使ったり、晴れた日の仕事帰りには1つ前の駅で降りて歩いてみたりなど、日常生活の中で活動量を増やしていけるように工夫してみましょう。

メタボにならないためにはまずはどんなことから取り組むとよいでしょうか?

坂本愛子先生 まずは、毎日体重計に乗ることをおすすめします。洋服のサイズ変化に気を付けてみるのもよいでしょう。体重やウエストサイズは、ご自宅でも自分で手軽にチェックできるので、日々の身体変化に気が付きやすい指標です。変化に気が付いたら、毎日の食事や運動を見直すきっかけにしてみて下さい。


最後に一言お願いします。

坂本愛子先生
食生活を急に変えることや、ダイエットのために運動を始めることは、なかなか難しいものです。女性の場合、仕事や家事に毎日忙しく、体によくないと頭の中ではわかっていても、自分の夕食は夜遅く寝る直前になってしまったり、朝食を抜いてしまったりすることもあるのではないでしょうか。無理をしすぎることなく長く続けていくことが、健康な体づくりにはとても大切です。もちろん、毎日、規則正しい食生活や運動習慣を実践することが理想的ですが、もしも、それが難しい場合も、週末は意識して早い時間に夕食を食べるようにしてみたり、早く帰宅できる日はウォーキングなどを実践してみたり、1週間単位でバランスを調整するように心がけてみましょう!

女性は“見た目”を意識してしまいがちですが、そこには落とし穴があることが分かりました。スタイルばかりを気にして、内面の健康状態を見落とさないようにしたいと思います。また、見えるところでなく内臓に脂肪が付くというのはとても怖いですね。糖との付き合い方、日々の身体の変化に気を付けるようにしていきたいと思います。

Summary
この記事のまとめ

  • 女性は特にウエストサイズだけで、メタボリスクを判断しない
  • 糖と脂肪の関係に注意!糖との付き合い方を考えよう
  • 食事や運動は、1週間単位で調整しよう

この内容は、第2回ロート女性健康科学研究助成内容を元に編集しています。より詳しい内容はこちらへ