尿もれに潜む危険!
骨盤臓器脱にならないために

尿もれに潜む危険! 骨盤臓器脱にならないために

くしゃみしたとき、「あっ!」。筋力の衰えからくる「尿もれ」を経験したことのある女性も多いのではないでしょうか。実は、この裏には、「骨盤臓器脱」という病気へのリスクが潜んでいるかもしれません。「骨盤臓器脱」の、原因や予防法について高橋先生にお伺いしました。

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お話を伺った先生

高橋悟先生
日本大学医学部
泌尿器科学系主任教授

群馬大学医学部卒業後、東京大学医学部泌尿器科助教授等を経て、現在に至る。日本大学医学部附属板橋病院副院長。著書に『よくわかる前立腺の病気』(岩波アクティブ新書)、『40歳からの女性の医学骨盤臓器脱』(岩波書店)、などがある他、「きょうの健康」(NHK)「名医にQ」(NHK)「たけしのみんなの家庭の医学」(テレビ朝日),「世界一受けたい授業」(日本テレビ)テレビにも多数出演。第3回ロート女性健康科学研究助成受賞

女性が気を付けるべき
骨盤臓器脱とは

骨盤臓器脱という病気、知りませんでした。どのような病気ですか?

高橋悟先生 骨盤臓器脱とは、骨盤の中におさまっている「膀胱・腟・直腸・子宮」が(図1)、本来の位置から下がり、腟の外に出てしまう病気のことです。図2のように、骨盤の底には骨がなく、「骨盤底筋」という筋肉が、ハンモックのように臓器を支えています。この「骨盤底筋」が弱くなったり損傷したりすることで臓器を支えられなくなり、骨盤臓器脱につながります。女性が非常にかかりやすい病気で、日常的に行う買い物や旅行、スポーツなどの活動に大きく影響します。


どのような方がなりやすいのですか?


高橋悟先生 妊娠・出産の経験がある人や加齢・運動不足で筋肉の衰えを感じている方に起こりやすい病気です。また、骨盤内への強い圧がかかることも原因の一つとして考えられ、極度の肥満の方・喘息(慢性の咳)の持病を持っている方・便秘で力むことが多い方も注意が必要です。

出産・運動不足など、多くの女性にリスクがあるのですね。
何才くらいから起こりやすいですか?

高橋悟先生 40才以降の方に多くみられます。 20代・30代で臓器脱まで進むケースは少なく、閉経後の急速な筋力低下により、臓器脱へと進行するケースが多いと思います。しかし、閉経前だから、症状がないからと安心してはいけません。妊娠・出産によって骨盤底筋が断裂したり、肥満・慢性的な便秘で骨盤底筋に長年負荷をかけることが、骨盤底筋力を徐々に低下させます。臓器脱に進行する前に筋力の低下を改善することが、臓器脱を発症させないためにはとても重要です。

どのような症状で気づくことが多いでしょうか?また、気付いたときの対処法を教えてください。

高橋悟先生 お風呂等で何か出ているのに触れた、いきむと腟口から突出している、完全に臓器が出ているなど、下腹部や腟内に違和感があります。尿や便がすっきり出ないような症状も多くみられます。治療法は、薬による治療はなく、原則、手術を行い下がってきた臓器を支えます。泌尿器科では近年、治療のガイドラインを整備し、その治療技術の開発が進んでいます。私たちの研究では、臓器を支えるメッシュを用いた治療法を開発し、治療を受けることによって治療後、臓器が出ないだけでなく、排尿や性生活など、生活の質(QOL)の改善も確認できています。内視鏡を用いた手術も2015年より保険適応となり、大きく治療法も発展しています。 しかし、このような症状は恥ずかしさや正しい知識の不足などから、受診率が非常に低い状況です。この病気は、早期の治療が大切ですので、一人で悩まずに病院(産婦人科や泌尿器科)で専門の医師に相談してください。

尿もれを感じたらはじめよう!
日々の生活で腹部を意識!

発症させないために、大切なことは何でしょうか?

高橋悟先生 「肥満」「出産」「加齢」が大きなリスク要因です。 特に肥満は、予防効果も報告されています。喫煙も避けるべきでしょう。出産方法については、経腟分娩の方が帝王切開よりリスクが高くなりますが、臓器脱のリスクだけで判断するべきではない側面もあると思います。産後の過ごし方は、将来の発症リスクに大きく影響しますので注意が必要です。
ちょっとしたくしゃみで尿がもれる症状がある人は、すでに骨盤底筋が弱くなっている証拠。体重管理や便秘しないような食生活を心がける、適度に運動する、喫煙を避けるなど、日々の生活を見直してください。そして、下半身・下腹部を意識的に鍛えるようにしましょう。

「骨盤底筋」、鍛えるにはどうしたらよいですか?

高橋悟先生 鍛えると言っても、ハードなトレーニングをする必要はありません。毎日、少しでもいいから、下半身や下腹部の筋力を意識することが大事です。例えば、バランスボールを利用する、座っている時に「内もも」に力を入れる、階段を利用する、寝る前や電車に乗っている時に、肛門をきゅっと締めおしりに力を入れるなど「ながら筋トレ」で大丈夫。「3~5秒間、各部位に力を入れる→緩める」をワンセットとして毎日60回、1か月続けることで、予防効果があると分かっています。ぜひ毎日続けてみてください。



最後に、みなさんへ一言アドバイスをお願いします。

高橋悟先生 知名度が低い病気でもあり「恥ずかしい」「年のせいだから」と正しい情報を知らずに諦めてしまう人もいらっしゃいます。しかし、決して恥ずかしい病気ではありません。現在は、治療法も発展してきていますし、予防効果の研究もどんどん進んでいます。予防のために毎日過ごし、万一発症したとしても、あきらめずに、産婦人科や泌尿器科で相談してください。女性が元気に快適な生活が送れることを願っています。

骨盤臓器脱症は、身近な病気。発症年齢になる前の期間のケアが非常に重要だということが分かりました。骨盤周りを意識的に鍛えることが、女性がいつまでもアクティブに過ごす秘訣と言えそうです。高橋先生、ありがとうございました!

Summary
この記事のまとめ

  • 女性は、誰もが骨盤臓器脱になるリスクがある
  • 症状が出た場合は、産婦人科や泌尿器科に早めに相談を
  • 尿もれある人は要注意!毎日、下半身・下腹部の筋力を意識

この研究は、第3回ロート女性健康科学研究助成を受賞しました。より詳しい内容はこちらへ

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